先輩起業家インタビュー 第２弾
本市で起業し、活躍されている株式会社ビット・トレード・ワン代表取締役の阿部行成さんへインタビューさせていただきました。創業時は阿部さんと社員１名で設立され、0からの会社組織設立、雇用、資金調達、販路開拓、製品開発、社内システム構築等、組織化全般に取り組まれました。今回、「起業したきっかけ」や「会社を経営していくやりがい」などを伺うとともに、未来の起業家へメッセージをいただきました。
プロフィール
・1979年7月25日東京生まれ
・電気通信大学知能機械工学科卒
・東京工業大学大学院制御システム専攻卒（工学修士）
・2005年、三菱重工業株式会社（汎用機特車事業本部）に入社と同時に相模原市に移住
・大学・大学院では現代制御理論の研究を行う。研究テーマは、倒立振子の非線形Ｈ∞制御、入力制限付き2入力2出力系の温度制御など
・三菱重工業では、電動フォークリフト向けインバータのソフトウェア及びモータ制御を担当。サービスツールの開発も行う。
・2010年1月、株式会社ビット・トレード・ワンを設立し、代表取締役に就任。
・2015年4月、株式会社ＢＴＯを設立し、代表取締役に就任。同社は、海外取引時の取引条件調整、為替ヘッジをするための会社として設立。
・2019年4月、サレジオ高等専門学校の非常勤講師に就任し、「機械加工」「機構学」「制御工学」を担当。
・2021年1月、飲食店経営を行う会社として株式会社エイコーンに出資。財務担当役員に就任。
・2022年7月、個人事務所 ATC（阿部テクニカルコンサルティング）を設立し、コンサルタント業務を行う。
元々好きだった電子工作の領域で起業 偉くなりたいという野心もモチベーションに
起業されたきっかけは何だったのでしょうか。
私は元々、三菱重工業株式会社相模原製作所で働いており、その時はフォークリフト関連の部門でエンジニアとして仕事をしていました。しかし、私が所属していた部門が京都の会社に吸収合併されることになりました。
元々、三菱重工には「この会社で偉くなりたい」という思いで入社していて、実際に3年目くらいまでは順調でしたが、吸収合併を機に自分のキャリアを考え直した時、起業して自分がトップになるのも良いのではと考え、元々起業に興味があったこともあり起業に踏み切りました。また、相模原市から出たくなかったというのも大きな理由でした。
何か取り組みたい事業はあったのですか。
当時流行っていたmixiアプリ関連か、元々好きだった電子工作の領域かで悩みました。電子工作は学生の頃からの趣味で、大学生の時は、趣味が高じて秋葉原にある電子部品屋さんでアルバイトをしていました。その部品屋さんは小さい店ながらも、年商が20億もあり当時衝撃を受けたのですが、これだったら自分でも同じことができるんじゃないかという気持ちもありました。その時の体験が心に残っていて、結果、電子基板、電子工作関連の商品を製造・販売する会社を立ち上げることにしました。
自分だけではない、社員と成功を共有しあう喜び
実際に起業されてみてどうでしたか。
想像していたよりも大変でしたね。起業すること（＝自分で全てのことをやらなければいけないということ）を起業前にイメージしきれていなかった。例えば、「電話回線を引く」、「請求書のフォーマットを作る」など、会社に勤めていた時は誰かがやってくれていた仕事を全て自分がやらないといけないことの大変さを改めて知りましたね。そういった準備段階に加えて、資金の調達、売上を伸ばす、仕事をとってくる、社員を雇うなど、会社を続けていくために色々なことを考えないといけない。全てが大変でした。
そういった状況下で事業をやられていた中で、何かターニングポイントとなる出来事はあったのでしょうか。
ターニングポイントは創業1年目の7月頃です。当然ながら、起業したての頃は売上がないので、自社製品をどう売っていくか、お客さんをどうやって探すかが喫緊の課題です。今もそうなのですが、当社の製品は基本的に自社通販サイトで販売しています。
2020年1月に創業し、その後サイトを立ち上げ、半年間くらいは毎月沢山の商品をリリースしました。その商品の一つにパドルコントローラー（※円形のツマミを備えたゲーム用のコントローラー。ブロック崩し等のゲームをプレイする際に用いられることが多い。）があったのですが、これがPC周辺機器を扱うポータルサイトで取り扱っていただけることになり、ヒット商品になりました。当時は色々なサイトに取り上げてもらうために、とにかく沢山プレスリリースしましたが、その泥臭い努力が実り、手ごたえを感じた瞬間でした。
起業してよかったと思うのはどういった瞬間なのでしょうか。
社員や商品を買ってくれた方が喜んでくれた時ですね。つい最近の話で、新たな製品開発にあたってクラウドファンディングのプロジェクトを実施していたのですが、おかげさまで目標額に到達しました（2022年10月21日時点）。社員発のアイデアだったのですが、クラウドファンディングを通して、自分が会ったこともない人に応援していただけること自体も嬉しいですし、社員発のプロジェクトが成功したということ、その喜びを会社全体で共有できることが何より嬉しいですね。
クラウドファンディングで目標額到達を実現した「バイノーラルマイク 美耳」
手軽にバイノーラル録音を楽しむことが出来る製品を作りたいと、若手社員の方が立ち上げたプロジェクト。
※バイノーラルマイクとは、あたかも実際にその場にいるような音響感覚を得ることが出来るステレオ録音
自分がやりたいことに向き合いチャレンジしたほうがいい
これから起業を目指す方へアドバイスはありますか。
一度きりの人生なので、自分がやりたいことにトライしてほしいと思っています。それが起業という手段で実現するのであれば、チャレンジすべきですね。会社勤めをしていて起業した身からすると、いきなり起業するではなく、会社に入ってからというのも選択肢の一つかなと思っています。私はエンジニアとして入社し、その後、経理部や資材部の仕事もしましたが、こうした経験が起業してからとても役に立っています。
また、自分の起業体験を振り返って思うのは、受けられる支援があるのであれば、受けた方がいいよということです。起業した当時の私は、自分の力を過信しているところがあって、支援なんか受けなくても自分の力だけでやっていけると思っていました。結果、起業した人が大抵躓くポイントには全て引っ掛かりましたね。事業をやっていく上では収益を出さないといけなくて、これは最終的に自分が責任を持つ部分です。ただ、それ以外で、例えば、起業した人皆が共通して悩むようなことについては支援を受けた方が近道だと思います。
相模原市でも今年からアクセラレーションプログラムを開始し、起業家を伴走支援しており、起業への熱意がある方であれば、積極的に支援させていただきたいと思っています。
素晴らしいプログラムですね。私も今回、アクセラレーションプログラムの起業家交流会に参加させていただきましたが、そこで出会った方と一緒に仕事をする機会に恵まれました。人との繋がりを生むという意味でも良いプログラムだなと感じています。
創業13年目 まだまだチャレンジを続けたい
最後に、今後挑戦したいことについて教えてください。
二つありまして、一つは海外販売ですね。いわゆる越境ＥＣにチャレンジしたいと思っています。自社サイトは既に海外対応しているので、今後はプロモーションをどのようにやっていくかが課題です。当社が製造しているような商品を扱っている会社が現地に既にあるのであれば、販路開拓もしていきたいですね。
もう一つは、マイ・プロダクトサービス（※個人の方が製作したハードウェアの製品化を支援するサービス。持ち込まれたハードウェアに対し、ビット・トレード・ワンが共同開発・製造・流通を担い、販売量に応じて製作者にペイバックを行う事業モデル）を更に尖らせていくことですね。これは他社ではあまりやっていない事業モデルだと思っています。開発だけでなく、生産や販路開拓まで一緒にやらせていただいていますが、私たちがサポートすることで、大手量販店等、一個人では開拓できない販売チャネルにアプローチできる点がメリットかと思います。今は7プロジェクトくらいが並走していますが、製作者が一人でできないことを当社がサポートすることで、製品の流通が上手くいき、製作者が喜んでくれることにもやりがいを感じます。
製品化に伴うブラッシュアップや諸業務をビット・トレード・ワンが行う事で、製品のコアとなる技術の開発に注力する事ができるサービスを提供する。
「同人ハードウェア製作は、とても楽しいものです。」と語る阿部さん
これからも新しいことにチャレンジされるということで、我々も楽しみです！最後に、相模原市について何かあればメッセージをお願いします。
就職を機にもう17年くらい相模原市に住んでいますが、以前と比べて、とても住みやすくなってきていると感じます。最近はリモートで仕事をすることも一般的になってきましたし、相模原で職住近接のライフスタイルを実現するのも良いのではないかと思います。
企業情報
会社名
株式会社ビット・トレード・ワン
主要拠点
本社・技術センター
〒252-0243 神奈川県相模原市中央区上溝5-1-23
東京デザイン室
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-19-34 KOWAビル6F
設立年月
2010年1月
ホームページ
https://bit-trade-one.co.jp/ 会社概要パンフレット